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名古屋地方裁判所 平成5年(ワ)2664号 判決 1996年12月16日

長野県松本市芳野一九番四八号

原告

キッセイ薬品工業株式会社

右代表者代表取締役

神澤陸雄

右訴訟代理人弁護士

小坂志磨夫

同右

小池豊

右輔佐人弁理士

南孝夫

同右

川上宣男

名古屋市西区児玉一丁目五番一七号

被告

マルコ製薬株式会社

右代表者代表取締役

小島彰夫

右訴訟代理人弁護士

富岡健一

同右

瀬古賢二

同右

舟橋直昭

右訴訟復代理人弁護士

高橋譲二

主文

一  被告は、原告に対し、二四〇六万四九八七円及びこれに対する平成五年四月一日から支払済に至るまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを六分し、その五を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

四  この判決の第一項及び第三項は、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、一億四九一八万円及びこれに対する平成五年四月一日から支払済に至るまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

2  訴訟費用は、被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は、原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求の原因

1  原告の特許権

(一) 原告は、次の特許権(以下「本件特許権」という。)を有する。

発明の名称 2-スチリル-3、1-ベンゾオキサジン-4-オン

誘導体及びその製造方法

出願日 昭和五一年一一月一九日(一九七五年一一月二五日米国出願に基づく優先権主張)

出願公告日 昭和五九年一月二七日

登録日 昭和五九年九月一九日

登録番号 第一二三〇五〇一号

(二) 本件特許権の特許請求の範囲第1項には、別紙化学式目録記載(一)の一般式で表される2-スチリル-3、1-ベンゾオキサジン-4-オン誘導体が記載されている。

2  物質P

2-(3、4-ジメトキシスチリル)-3、1-ベンゾオキサジン-4-オン(以下「物質P」という。)は、別紙化学式目録記載(一)の一般式において、Rが炭素原子数一のアルコキシル基すなわちメトキシ基であり、nが2であり、右メトキシ基が3及び4の位置にある物質であって、同目録記載(二)の構造式を有し、本件特許権の特許請求の範囲第4項に記載されている。

3  被告による物質Pの製造使用

(一) 被告は、平成二年一〇月から平成五年三月までの間、別紙「被告のトラニラスト製造法」記載の方法(以下「被告方法」という。)により製造された別紙化学式目録記載(三)の構造式を有する物質(以下「トラニラスト」という。)を原料としてトピアスという製剤を製造した。

(二) 被告方法においては、同目録記載(四)の構造式を有する2-(3、4-ジメトキシシンナモイル)アミノ安息香酸アミド(以下「TRSアミド」という。)を加水分解する過程において、中間体として物質Pが生成する。

なお、仮に物質Pではなく、物質Pの塩酸塩が生成するとしても、物質Pの塩酸塩は、特許請求の範囲の解釈においては、物質Pと同一の物質とみなされる。

4  共同不法行為

(一) 被告は、右のようにして製造したトピアス製剤を株式会社マルコ(以下「マルコ」という。)を通じて、株式会社スズケン(以下「スズケン」という。)等の卸売業者に販売した(以下、平成二年一〇月から平成五年三月までの間にマルコを介して卸売業者に販売されたトピアス製剤を「本件トピアス製剤」という。)。

(二) マルコは、昭和四九年に被告の営業部門を独立させて、別法人としたものであって、本店、代表取締役を被告と共通にし、実質的にその全株式を被告が保有している。

そして、マルコは、実質的には、被告の営業部門として被告製品のみを販売しており、被告自体には、営業部門はない。

(三) したがって、被告とマルコとの製造・販売行為は、不可分一体のものであり、本件特許権の侵害との関係では、共同不法行為に当たる。

5  損害額

(一) 売上高

(1) 販売単価

<1> 平成二年一〇月から平成三年八月までの間

ア 次の理由により、右期間におけるマルコによる本件トピアス製剤の販売単価は、薬価基準の五〇パーセントを下回ることはない。

a 日本経済新聞の記事(甲一八の一)によると、平成二年六月二九日、中小薬品メーカー間において、トラニラスト製剤等について、販売単価の下限を薬価基準の半額程度にする旨のヤミカルテルが結ばれた。このことからすると、本件トピアス製剤の販売単価は、薬価基準の五〇パーセントを下回ることはない。

b 平成四年四月の薬価改定の際には「新薬価基準=実勢価格+旧薬価基準の一五パーセント」という算定方式が採られ、旧薬価基準では、カプセルが一〇九・三円、細粒及びドライシロップが一二一・四円であったが、新薬価基準では、カプセル及び細粒が八八円、ドライシロップが九八・三円と定められた。

そこで、右算式に基づいて本件トピアス製剤の実勢価格を逆算すると、本件トピアス製剤の実勢価格は、カプセルが七一円、細粒が六九円、ドライシロップが八〇円となる。

右実勢価格に売上原価率を乗じると、被告の販売単価が算出できるところ、医薬品の卸売業者における売上原価率は八六パーセントを下回ることはないから、被告の販売単価は、右実勢価格に〇・八六を乗じた金額、すなわちカプセルが六一・〇円、細粒が五九・三円、ドライシロップが六八・八円を下回ることはない。

そして、当時の薬価基準は、カプセルが一〇九・三円、細粒及びドライシロップが一二一・四円であるから、被告の販売単価の薬価基準に対する割合は、カプセルが五五・八パーセント、細粒が四八・八パーセント、ドライシロップが五六・六パーセントとなり、全体としては五〇パーセントを下回ることはない。

c スズケンの拡売計画に対するマルコの協賛稟議書(乙一三の一ないし三)記載のマルコのスズケンに対する薬価基準換算の売上総額及び正味仕切価格総額に基づいて薬価基準に対する正味仕切価格の割合を算出すると、平成二年四月から九月までの間の販売実績及び同年一〇月から一二月までの間の拡売計画においては五一・五パーセント、同年一〇月から一二月までの間の拡売実績においては五二・六パーセントであり、いずれも五〇パーセントを超えていた。

d 原告は、平成三年二月二二日、医薬品の卸売業者である船橋薬品株式会社(以下「船橋薬品」という。)から、トピアス製剤を購入したが、その際の価格は、薬価単位当たりカプセルが七六・二円、細粒及びドライシロップが八五・八円であった。

また、原告は、同年三月五日、スズケンから、トピアス製剤を購入したが、その際の価格は、薬価単位当たりカプセルが七四・七円であった。

これらの金額に、売上原価率として〇・八六を乗じて販売単価を算出すると、それぞれ六五・五円、七三・七円、六四・二円となり、薬価基準に対する割合は、五九・九パーセント、六〇・七パーセント、五八・七パーセントであり、いずれも五〇パーセントを超えている。

イa 右期間におけるトピアス製剤の薬価基準は、カプセルが一〇九・三円、細粒及びドライシロップが一二一・四円であった。

b したがって、本件トピアス製剤の薬価単位当たりの販売単価は、カプセルが五四・七円、細粒及びドライシロップが六〇・七円を下回ることはない。

<2> 平成三年九月から平成四年三月までの間

トピアス製剤は、平成三年九月から建値制に移行したので、右期間における本件トピアス製剤の薬価単位当たりの販売単価は、仕切価格すなわちカプセルが四六・〇円、細粒及びドライシロツプ(包装単位〇・五グラム×二四〇包、一グラム×一二〇包及び一二〇グラム)が五〇・〇円、細粒及びドライシロップ(包装単位六〇〇グラム)が四〇・〇円を下回ることはない。

<3> 平成四年四月から平成五年三月までの間

ア 右期間における本件トピアス製剤の仕切価格は、薬価単位当たり、カプセル(包装単位PTP五〇〇グラム)が二一・六円、カプセル(包装単位PTP一〇〇〇グラム及びバラ一〇〇〇グラム)が一六・二円、細粒及びドライシロップ(包装単位〇・五グラム×二四〇包、一グラム×一二〇包及び一二〇グラム)が三〇・〇円、細粒及びドライシロップ(包装単位六〇〇グラム)が二四・〇円であった。

イ そして、建値制が採用されている以上、本件トピアス製剤の販売単価が、右仕切価格を下回ることはない。

(2) 販売数量

<1> 平成二年一〇月から平成三年八月までの間

右期間における本件トピアス製剤の販売数量は、カプセル(包装単位PTP五〇〇グラム)が四〇四個、カプセル(包装単位PTP一〇〇〇グラム及びバラ一〇〇〇グラム)が一三八五個、細粒(包装単位〇・五グラム×二四〇包、一グラム×一二〇包及び一二〇グラム)が七四七個、細粒(包装単位六〇〇グラム)が二二七個、ドライシロップ(包装単位〇・五グラム×二四〇包、一グラム×一二〇包及び一二〇グラム)が一五七一個、ドライシロップ(包装単位六〇〇グラム)が三六八個である。

<2> 平成三年九月から平成四年三月までの間

右期間における本件トピアス製剤の販売数量は、カプセル(包装単位PTP五〇〇グラム)が二三九個、カプセル(包装単位PTP一〇〇〇グラム及びバラ一〇〇〇グラム)が九二五個、細粒(包装単位〇・五グラム×二四〇包、一グラム×一二〇包及び一二〇グラム)が五七三個、細粒(包装単位六〇〇グラム)が一三五個、ドライシロップ(包装単位〇・五グラム×二四〇包、一グラム×一二〇包及び一二〇グラム)が一一〇五個、ドライシロップ(包装単位六〇〇グラム)が二二二個である。

<3> 平成四年四月から平成五年三月までの間

右期間における本件トピアス製剤の販売数量は、カプセル(包装単位PTP五〇〇グラム)が三二四個、カプセル(包装単位PTP一〇〇〇グラム及びバラ一〇〇〇グラム)が二四九三個、細粒(包装単位〇・五グラム×二四〇包、一グラム×一二〇包及び一二〇グラム)が六七九個、細粒(包装単位六〇〇グラム)が一七六個、ドライシロップ(包装単位〇・五グラム×二四〇包、一グラム×一二〇包及び一二〇グラム)が一八五四個、ドライシロップ(包装単位六〇〇グラム)が七二九個である。

(3) 右(1)の販売単価に右(2)の販売数量を乗じると、二億五八〇八万二七一二円となるから、本件トピアス製剤の売上高は、二億五八〇五万円を下回ることはない。

なお、被告主張の値・歩引きは、卸売業者の一定期間の総実績に対する報償たるリベートであって、その決定はマルコの裁量に基づくものであるから、特許法一〇二条一項の利益からこれを控除することは許されない。

(二) 製造経費

(1) 本件トピアス製剤の製造経費は、被告から開示された製造工程及び製剤化工程の実態を踏まえて算出した結果、薬価単位当たりカプセルが九・二円、細粒が九・五円、ドライシロップが六・六円であった。

(2) 原告が製造しているトラニラスト製剤のリザベン製剤については、その製造経費は、薬価単位当たり五・四円である。

(3) したがって、本件トピアス製剤の製造経費は、薬価単位当たり一〇円を上回ることはない。

そして、右(一)(2)の販売数量を薬価単位に換算し、一〇円を乗じると、七一八四万一八〇〇円となる。

(三) 販売費・一般管理費

(1) 被告及びマルコの平成二年一〇月から平成五年三月までの販売費・一般管理費の合計は、五一九〇万二〇〇七円である。

(2) しかし、そこに含まれている研究開発費一四八四万二九八四円は、本件トピアス製剤に対するものとはいえないから、それを控除した三七〇五万九〇二三円が販売費・一般管理費となる。

(四) 損害額

(1) 被告及びマルコが本件特許権の侵害により受けた利益は、右(一)(3)の売上高二億五八〇五万円から製造原価として七一八三万円及び販売費・一般管理費として三七〇四万円を控除した一億四九一八万円を下回ることはない。

(2) 原告は、本件トピアス製剤の販売前から、トラニラストを原料とするリザベン製剤を製造販売しているので、特許法一〇二条一項により、被告及びマルコが受けた右利益の額が、原告が被った損害額と推定される。

6  よって、原告は、被告に対し、不法行為による損害賠償として、一億四九一八万円及びこれに対する不法行為の結果発生後である平成五年四月一日から支払済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払うことを求める。

二  請求の原因に対する認否

1  第1項(原告の特許権)の事実は認める。

2  第2項(物質P)の事実は、知らない。

3  第3項(被告による物質Pの製造使用)について

(一) 同項(一)の事実は、認める。

(二) 同項(二)のうち、被告方法において、中間体として物質Pが生成することは、否認する。

被告方法においては、TRSアミドの一部が、中間体として物質Pの塩酸塩に変換されるので、物質Pの塩酸塩は、生成するが、引き続きトラニラストに変換される(中間体への変換率は、明らかではない。)。

しかし、物質Pの塩酸塩は、通常の塩形成手段では製造できず、単離するにも特別な技術的手段を必要とするから、特許請求の範囲の解釈においても、物質Pと同一の物質とみなすことはできない。

また、仮に物質Pの塩酸塩を物質Pと同一の物質とみなすべきであるとしても、物質Pの塩酸塩は、TRSアミドからトラニラストへの変換過程において、過渡的に存在するに過ぎない。

したがって、被告方法における物質Pの塩酸塩の生成は、物質Pの製造使用には当たらない。

5  請求の原因第5項(損害額)について

(一) 同項(一)(売上高)について

(1) (1)(販売単価)について

<1> <1>(平成二年一〇月から平成三年八月までの間)の事実について

アa アaのうち、原告主張の記事が日本経済新聞に掲載された事実は認め、その余の事実は否認する。

右記事は、公正取引委員会が、中小医薬品メーカーに対し、薬剤の販売価額の下限を薬価基準の半値に抑える旨申し合わせたことを独禁法違反の疑いがあるとして警告したという内容にとどまり、各社が実際に五割引を下限として販売していたことを内容とするものではない。

しかも、右記事には、右申合せが二週間程度で破棄されたとの記載があり、これは、各社が、右申合せの五割を下回る価額で廉売していたことを示している。

b アbのうち、平成四年四月の薬価改定の際に「新薬価基準=実勢価格+旧薬価基準の一五パーセント」という算定方式が採られた事実及び新旧薬価基準は認め、その余の事実は否認する。

医薬品流通業界における真の実勢価格をそのまま算定基準としたのでは、たちまち値崩れが起き、適正な価格維持及びメーカーの利益追求が不可能となることから、厚生省は、流通業界の中で最も高い実勢価格を採用して改定薬価決定の際の基準数値としたり、あるいはヒヤリングと称する事前折衝の場で、業者の高値設定の要求を容れるなどの策を講じることで、真の実勢価格よりもかなり高い価格を「実勢価格」として設定し、新薬価基準が旧薬価基準に比して著しく低落することのないように工夫を凝らしていた。

したがって、右算式から逆算された理論上の実勢価格は、真の実勢価格とは一致しない。

c アcの事実について

原告算定の数値は、マルコがスズケンに対して販売した医薬品全体について見た数値であるから、右事実をもって直ちに本件トピアス製剤の販売単価が、薬価基準の五〇パーセントを下回ることがないということはできない。

d アdの事実について

医療機関以外の者が卸売業者から医薬品を購入する場合には、営業担当者(MR)の活動が介在しないため、医療機関が購入する場合よりも割高になるから、原告が購入した価格をもって直ちに本件トピアス製剤の販売単価が、薬価基準の五〇パーセントを下回ることがないということはできない。

イ イの事実について

右期間における本件トピアス製剤の包装単位当たりの販売単価は、マルコが設定した限度価の一・一倍であり、カプセル(包装単位PTP五〇〇グラム)が、平成三年一月までは一万一八八〇円、同年二月以降は七九二〇円、カプセル(包装単位PTP一〇〇〇グラム及びバラ一〇〇〇グラム)が、平成三年一月までは二万三七六〇円、同年二月以降は一万五八四〇円、細粒(包装単位〇・五グラム×二四〇包、一グラム×一二〇包及び一二〇グラム)が三五二〇円、細粒(包装単位六〇〇グラム)が一万四〇八〇円、ドライシロップ(包装単位〇・五グラム×二四〇包、一グラム×一二〇包及び一二〇グラム)が三三〇〇円、ドライシロップ(包装単位六〇〇グラム)が一万三二〇〇円である。

<2> <2>(平成三年九月から平成四年三月までの間)の事実は、否認する。

トピアス製剤について建値制が実施されたのは、平成四年四月である。

したがって、右期間における本件トピアス製剤の包装単位当たりの販売単価は、右<1>と同様である。

<3> <3>(平成四年四月から平成五年三月までの間)の事実について

アの事実は、認める。イの事実は、否認する。

マルコは、建値制移行後も五ないし七パーセントの値・歩引きをしていた。したがって、右期間における本件トピアス製剤の包装単位当たりの販売単価は、仕切価格の九五パーセントであり、カプセル(包装単位PTP五〇〇グラム)が一万〇二六〇円、カプセル(包装単位層PTP一〇〇〇グラム及びバラ一〇〇〇グラム)が一万五三九〇円、細粒及びドライシロップ(包装単位〇・五グラム×二四〇包、一グラム×一二〇包及び一二〇グラム)が三四二〇円、細粒及びドライシロップ(包装単位六〇〇グラム)が一万三六八〇円である。

(2) (2)(販売数量)の事実は、認める。

なお、平成三年一月までのカプセル(包装単位PTP五〇〇グラム)の販売数量は、九四個であり、同月までのカプセル(包装単位PTP一〇〇〇グラム及びバラ一〇〇〇グラム)の販売数量は、二二九個である。

(3) (3)の事実は、否認する。

本件トピアス製剤の売上高は、一億三二九六万五八一〇円である。

(二) 同項(二)(製造経費)の事実は、否認する。

本件トピアス製剤の製造経費は、八〇九三万三二五七円である。

(三) 同項(三)(販売費・一般管理費)の事実について

(1) (1)の事実は、認める。

(2) (2)は、争う。

販売費・一般管理費には、当該期間中の研究開発費のうち、売上割合により算出した一四八四万二九八四円を含めるべきであるから、本件トピアス製剤の販売費・一般管理費は、五一九〇万二〇〇七円である。

(四) 同項(四)(損害額)について

(1) (1)の事実は、否認する。

被告が本件トピアス製剤の製造によって受けた利益は、右(一)(3)の一億三二九六万五八一〇円から右(二)の八〇九三万三二五七円及び右(三)の五一九〇万二〇〇七円(研究開発費を販売費・一般管理費に含めない場合は、三七〇五万九〇二三円)を控除した一三万〇五四六円(研究開発費を販売費・一般管理費に含めない場合は、一四九七万三五三〇円)である。

(2) (2)は、争う。

6  第6項は、争う。

三  抗弁

1  無過失

被告は、被告方法においてTRSアミドの一部が物質Pを経由することを知らなかった。

特許庁が被告方法について本件特許の存在にもかかわらず公告決定をしたことや、原告も多くの実験をした上でようやく被告方法において生成される中間体が物質Pに当たる旨の主張をするに至ったことに照らせば、被告には、被告方法においてTRSアミドの一部が物質Pを経由することを知らなかったことについて過失がなかったといえる。

したがって、被告方法の使用が本件特許権の侵害に当たるとしても、被告は、不法行為による損害賠償責任を負わない。

2  無重過失

被告は、被告方法において、TRSアミドの一部が物質Pを経由することを知らなかったが、右1で述べたとおり、被告には、そのことについて重過失がなかったといえる。

したがって、特許法一〇二条三項後段により、賠償額の算定に参酌すべきである。

四  抗弁に対する認否

抗弁1及び2の事実は、いずれも否認する。

第三  証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。

理由

一  請求の原因第1項(原告の特許権)の事実は、当事者間に争いがなく、同第2項の事実(物質P)は、証拠(甲二)により、これを認めることができる。

二  次に、請求の原因第3項(被告による物質Pの製造使用)につき判断する。

1  同項(一)の事実は、当事者間に争いはない。

2  同項(二)について

証拠(甲三、甲四の一、二)によると、被告方法においては、TRSアミドが、必ず、一旦、物質P又はその塩酸塩に変換され、その後トラニラストに変換されることが認められる(被告は、物質P又はその塩酸塩への変換率は、不明である旨主張するが、右認定を覆すに足りる証拠はない。)。

ところで、塩酸は、塩形成に通常用いられる酸であり、物質Pの塩酸塩の化学構造に特異な点があるとはいえない。また、物質Pの塩酸塩も物質Pと同様に加水分解によりトラニラストに変換されるものであり、物質Pの塩酸塩が塩であるがゆえに物質Pとは異なる作用効果を奏するとはいえない。したがって、本件特許請求の範囲の解釈においては、物質Pの塩酸塩は、物質Pと同一の物質とみるのが相当である。

なお、被告は、物質Pの塩酸塩は、通常の塩形成手段では製造できず、単離するにも特別な技術的手段を必要とする旨主張するが、製造の困難性は、製造方法の特許性という観点からは意味があるが、物質の同一性の判断に影響を与えるものではない(甲八によると、特許庁の実務においては、化学物質の発明の同一性の判断基準として、化学物質の発明とその単なる塩の発明とは、原則として同一とする取扱いになっていることが認められ、本件においては、物質Pとその塩酸塩との間に、両者を例外的に別個の物質であるとすべき事情を認めることはできない。)。

また、被告は、被告方法においては、物質Pの塩酸塩は、TRSアミドからトラニラストへの変換過程において、過渡的に存在するに過ぎない旨主張するが、物質Pは、その特許請求の範囲において分子の構造である構造式により特定されているから、溶媒に溶かされているか、結晶となっているか、粉末となっているかといった、その存在形態を問わないものである。したがって、右構造式を有する物質が生成されたことが確認できれば、その物質を抽出、分離しなくとも、その物質を製造したことになり、抽出、分離をしないで、そのまま、反応工程を継続することによりトラニラストに変換すれば、その物質を使用したことになる(そのことは、本件特許権の明細書(甲二)において、被告方法のように中間体を単離精製しない場合について、「精製せず、加水分解反応に供してもよい」と特記されていることからも明らかである。)。

以上判示したところによると、被告が、被告方法を使用してトラニラストを製造する行為は、物質P(又はその塩酸塩)を製造使用するものであり、本件特許権の実施に当たる。

三  次に、請求の原因第4項(共同不法行為)について判断する。

被告は、同項(一)(二)の事実を明らかに争わないので、これを自白したものとみなす。

右事実と弁論の全趣旨によると、被告とマルコは、意思を相通じ、被告において、被告方法によりトラニラストを製造した上、それを原料として本件トピアス製剤を製造し、マルコにおいて、被告の実質的な営業部門としてこれを販売したものといえる。

そして、被告は、業として被告方法によりトラニラストを製造したものであるから、被告の右行為は、本件特許権の侵害行為に当たる。

四  抗弁第1項については、本件特許の出願公告が昭和五九年一月二七日になされている以上、被告の主張する事実によっては被告に過失がなかったものとすることはできず、他に、被告に過失がなかったものとすべき事情を認めるに足りる証拠はない。

五  そこで、進んで、請求の原因第5項(損害額)について判断する。

証拠(甲一六、乙二四)と弁論の全趣旨によると、原告は、トラニラスト製剤である「リザベン製剤」を、本件トピアス製剤の販売前から、製造販売していることが認められる。そうすると、原告は、本件特許権を侵害して作成された本件トピアス製剤の販売により損害を受けたものと推認できる。

そして、前示三のように被告とマルコが密接な一体関係にあることからすると、特許法一〇二条一項を適用するに当たっては、被告とマルコを一体と見て侵害者の得た利益を算定するのが相当である。

したがって、以下、右の観点から検討することとする。

1  同項(一)(売上高)について

(一)  (1)(販売単価)について

(1)<1> <1>(平成二年一〇月から平成三年八月までの間)について

ア 原告は、右期間における本件トピアス製剤の卸売業者に対する販売単価は薬価基準の五〇パーセントを下回ることはないと主張する。

そこで、まず、前提となる事実を検討するに、証拠(甲二〇)と弁論の全趣旨によると、トラニラスト製剤であるトピアス製剤は、同じくトラニラスト製剤である原告のリザベン製剤のいわゆる後発品であり、カプセルについては同様の後発品メーカーが被告を含め二七社あったことが認められ、また、証拠(甲二一、甲二五の三、乙一四の一ないし三、乙一五の一ないし三の各一、二、乙一六、二一、朝岡証人(第一回、第二回))と弁論の全趣旨によると、建値制移行前の本件トピアス製剤の流通形態は、次のようなものであったことが認められる。

a マルコは、卸売業者に対し、薬価基準に近い仮仕切価格で納品する。

b マルコの営業担当者(MR)が、医療機関との交渉によって、仮仕切価格よりも低い価格で、卸売業者から医療機関に対する納入価格を決定する。

c マルコが、卸売業者に対し、納入価格を通知し、卸売業者は、医療機関に対し、納入価格で納品する。

d 卸売業者は、マルコに対し、仮仕切価格と納入価格との差額及び自己のマージン(末端値引き、納入価格の一〇ないし一四パーセント)を請求する(補償申請)。そして、納入価格からこれらの分を控除した金額が、正味仕切価格となる。

e マルコが、卸売業者に対し、全製品につき、回収値引、協賛値引等の名目で、正味仕切価格の九パーセント程度の最終値・歩引きを行う。

イ 次に、右に認定した事実を前提として、原告の主張する根拠につき検討する。

a 証拠(甲一八の一、二)によると、被告を含む後発品メーカー二〇社が、平成二年六月二九日、同年七月一三日に薬価基準に収載される予定のトラニラスト製剤の販売価格の下限を薬価基準の五割引き程度に抑える旨のヤミカルテルを結んでいた可能性が強いとして、公正取引委員会から同年一二月二六日に警告を受けたことが認められる。しかしながら、右の事実は、ヤミカルテルを結ばなければ、販売価格が薬価基準から五割以上値引きされることが予想される状況であったことを示すものである。

さらに、甲一八の一(日本経済新聞)には、右ヤミカルテルにもかかわらず、各社がシェア争いに走ったことから、申し合わせは長続きせず、二週間ほどで破棄された旨記載されている。

また、証拠(乙二六)によると、業界の専門誌の平成二年一一月号において、信じられないほどの価格の乱れが生じており、薬価基準など念頭にあるとは思えないとした上、トラニラスト製剤について、薬価基準が一〇九・三円であるにもかかわらず、そのほぼ二三パーセントに過ぎない二五円台で販売されているとの記事が登載されたことが認められる。

そうすると、右のヤミカルテルについては、本件トピアス製剤の卸売業者に対する販売単価(正味仕切価格)が薬価基準の五〇パーセントを下回らないことの根拠とすることはできない。

b 次に、平成四年四月の薬価基準の改定の際には「新薬価基準=実勢価格+旧薬価基準の一五パーセント」という算定方式が採られたこと及び新旧薬価基準は、当事者間に争いはない。そして、右算式に基づいて本件トピアス製剤の右「実勢価格」を逆算すると、カプセルが七一円、細粒が六九円、ドライシロップが八〇円となる。

また、右「実勢価格」に卸売業者における売上原価率として、〇・八六を乗じると、カプセルが六一・〇円、細粒が五九・三円、ドライシロップが六八・八円となる。

さらに、当時の薬価基準は、カプセルが一〇九・三円、細粒及びドライシロップが一二一・四円であるから、仮に右「実勢価格」が正確であるとすれば、被告の販売単価(正味仕切価格)の薬価基準に対する割合は、カプセルが五五・八パーセント、細粒が四八・八パーセント、ドライシロップが五六・六パーセントとなり、全体としては五〇パーセントを下回らないといえる。

しかしながら、証拠(甲二〇)によると、右「実勢価格」は、厚生省が平成三年六月取引分を対象として同年七月から八月にかけて本調査を行うなどして決定したものと認められるが、前示の流通経路と薬価基準の制度とを前提とすると、医薬品製造業者並びに調査に協力した卸売業者及び医療機関のいずれにとっても、実勢価格を高く報告した方が利益があるという状況であるから、右の調査における報告がどの程度誠実に行われたか疑問があるのみならず、調査を予定して価格操作や帳簿操作を行うなどの不正を排除し得る制度となっていたかどうかについても疑問がある。しかも、厚生省は、実勢価格の調査結果及びそれに基づく右「実勢価格」の決定理由を明らかにしていない(弁論の全趣旨による。)。

さらに、証拠(甲三一の一の一、二、甲三一の二の一、二、船橋薬品に対する調査嘱託の結果)と弁論の全趣旨によると、トピアス製剤のカプセルについては、平成四年四月一日の新薬価基準は八八円と決定されたにもかかわらず、船橋薬品における同日以降の被告からの仕入単価は、一六・二〇円(右薬価基準の約一八・四パーセント)に過ぎず、標準販売単価も、一八・六二円(右薬価基準の約二一・二パーセント)に過ぎないことが認められるので、右薬価基準を決定するための本調査が平成三年六月の実績を前提としていることや、新薬価基準が定められるとそれに伴って医療機関への販売単価が低下することを考慮しても、右のような単価の極端な乖離は、極めて不自然であるというほかない。

したがって、新薬価基準から算出した右「実勢価格」が真実の取引価格を正確に反映しているとは到底認めることはできず、右「実勢価格」を根拠として、マルコが、本件トピアス製剤を薬価基準の五〇パーセントを下回らない価格で販売していたと認めることはできない。

c スズケンの拡売計画に対するマルコの協賛稟議書(乙一三の一ないし三)記載のマルコのスズケンに対する薬価基準換算の売上総額及び正味仕切価格総額に基づいて薬価基準に対する正味仕切価格の割合を算出すると、平成二年四月から九月までの間の販売実績及び同年一〇月から一二月までの間の拡売計画においては五一・五パーセント、同年一〇月から一二月までの間の拡売実績においては五二・六パーセントであり、いずれも五〇パーセントを超えている(この点については、被告は、明らかに争わないので、自白したものとみなす。)。

しかしながら、右数値は、マルコがスズケンに対して販売した医薬品全体について見た数値であるから、右事実をもって本件トピアス製剤の卸売業者に対する販売単価が、薬価基準の五〇パーセントを下回ることがないということはできない。

d 次に、原告が、平成三年二月二二日、船橋薬品から、トピアス製剤を購入した際、その価格は、薬価単位当たり、カプセルが七六・二円、細粒及びドライシロップが八五・八円であり、原告が、同年三月五日、スズケンから、トピアス製剤を購入した際、その価格は、薬価単位当たりカプセルが七四・七円であった(いずれも、被告において、明らかに争わないのでこれを自白したものとみなす。)。

しかし、前示の流通経路によると、トピアス製剤の価格の低下は、マルコの営業担当者が関与して医療機関との間で納入価格を決定することに大きな原因があったと認められるから、医療機関以外の者が直接卸売業者から購入した場合に、同様な価格になるとはいえない。

したがって、右の購入価格をもって、マルコの卸売業者に対する販売単価(正味仕切価格)が薬価基準の五〇パーセントを下回っていなかったことの根拠とすることはできない。

ウ 右イaないしdにおいて判示したところによると、平成二年一〇月から平成三年八月までの間の本件トピアス製剤の販売単価(正味仕切価格)については、薬価基準の五〇パーセントを下回っていなかったと認めるに足りる証拠はないことになる。

他方、被告の主張する販売単価も、十分な根拠があるとはいえない(乙一八、一九の各一ないし一一は、本訴提起後に作成されたものであり、作成者本人による作成に関する証言がないので、本件事案に鑑みると、その成立をたやすく認めることはできない。また、被告は、限度価については、平成六年六月一日付けでそれを取りまとめた乙一を証拠として提出したが、乙一に記載した限度価の原資料を証拠として提出しないので(証拠(乙二三、朝岡証人(第一回))によると、マルコは、限度価を定めて、それを記載した価格表を営業担当者に所持させていたことが認められるので、被告としては、そのような価格表によっても、限度価を立証できるはずである。)、被告主張の限度価及びそれに基づき算定した販売単価も正確な限度価、販売単価と認めることはできない。)。

しかし、本件においては、被告主張額以上の販売単価を具体的に認定できる証拠もないので、右の期間の販売単価は、被告の自認している限度で認めるほかない(なお、被告の自認している単価は、前示の最終値・歩引きを考慮しているが、単価の決定に際し、最終値.歩引きを考慮すべきではないとしても、最終値・歩引きは、販売促進のために不可欠なものであったといえるから、販売単価から控除しない場合には、経費として計上した上、利益から控除すべきものである。したがって、被告及びマルコの得た利益が問題となっている本件においては、計算の便宜上、被告主張のとおり、販売単価から控除する方法により利益の算定をすることにする。)。

<2> <2>(平成三年九月から平成四年三月までの間)について

原告は、トピアス製剤は平成三年九月一日に建値制に移行した旨主張する。

そして、証拠(甲三〇、甲三一の一の一、二、甲三一の二の一、二、船橋薬品に対する調査嘱託の結果)によると、船橋薬品は、平成三年九月一日からは、トピアス製剤のカプセルについては、帳簿上、仕入単価、標準販売単価ともに四六円である旨記載していること、また、マージンはゼロと記載していることが認められる。

しかしながら、右記載が本来の建値制の下の単価の記載であるとすれば、仕入単価と標準販売単価とが一致することは不可解であり、この点は、実際には、マージン、値・歩引き等により、マルコから船橋薬品に対して船橋薬品の取得すべき利益相当額が還元されていた可能性が強いというべきである。

また、平成四年四月一日からの仕入単価が一六・二〇円であったことは前示のとおりであるが、薬価基準が一〇九・三〇円から八八円に変更されたことから、仕切単価が四六円から一六・二〇円と半分以下に低下したと考えることはできない。

したがって、他の証拠(スズケン、ホシ伊藤株式会社、株式会社小田島、株式会社ヤクシン及び株式会社三星堂に対する各調査嘱託の結果)をも併せ考えると、右の仕入単価四六円は、平成四年四月一日から実施された完全な建値制の下での仕入単価と同じものと見ることはできず、実際の販売価格を反映していると認めることはできない。

そして、本件においては、他に右の期間における販売単価(正味仕切価格)を認定するに足りる証拠はない。

したがって、右期間における本件トピアス製剤の販売単価は、右<1>の場合と同様に被告の主張額の範囲で認めるのが相当である。

<3> <3>(平成四年四月から平成五年三月までの間)について

アの事実は、当事者間に争いはない。

しかし、証拠(乙二三、朝岡証人(第一回))によると、トピアス製剤は平成四年四月一日に完全な建値制に移行した後も、仕切価格の五ないし七パーセントの値・歩引きを行っていたことが認められる。

したがって、右の間の本件トピアス製剤の仕切単価は、当事者間に争いはないが、販売単価は、<1>の場合と同様に被告主張額の範囲で認めるのが相当である。

(2) (2)(販売数量)の事実は、当事者間に争いがない。

なお、平成三年一月までのカプセル(包装単位PTP五〇〇グラム)並びにカプセル(包装単位PTP一〇〇〇グラム及びバラ一〇〇〇グラム)の販売数量についても、原告はこれを明らかに争わないから、自白したものとみなす。

(3) (3)(売上高)について

本件トピアス製剤の売上高は、右(1)認定の販売単価に、右(2)の販売数量を乗じたものの総和として求めることができ、被告の主張するとおり、一億三二九六万五八一〇円ということになる。

(二)  同項(二)(製造経費)について

被告は、製造経費は、八〇九三万三二五七円であると主張し、これに沿う証拠(乙三、二四、石野証人)もある。しかしながら、被告の主張は、乙三を根拠とするところ、同号証には、製造経費算定の基礎数字は、工場から管理部長宛に送付されてくる製剤見積もり製造原価一覧表から抜粋したものである旨記載されているところ、被告は、その原資料を証拠として提出しないので、右の記載自体の正確性も原資料の正確性も確認できない。

他方、甲一九(薬価単位当たりカプセルが九・二円、細粒が九・五円、ドライシロップが六・六円とする。)は、被告提出の資料に基づき、その資料記載の製造方法を前提として製造原価を推計したものであり、その推計過程は合理的であるから(右推計では、その他の経費として一キログラム当たり一〇〇〇円を加算しているので、法定福利費や厚生福利費等を無視しているとはいえないし、工場間接費に当たる費用が全く考慮されていないともいえない。)、乙三と比較すると、より信憑性があるというべきである。

また、証拠(甲一六)によると、原告のリザベン製剤の場合には、薬価単位当たりの製造原価は、四・〇五円ないし五・五六円であったことが認められる。

そうすると、原告と被告との製造規模等の差異を考慮しても、被告の製造原価が薬価単位当たり一〇円を超えることはないとする甲一九の結論を採用するのが合理的である。

したがって、前示販売数量を薬価単位に換算し、一〇円を乗じると、本件トピアス製剤の製造原価は、七一八四万一八〇〇円となる。

(三)  同項(三)(販売費・一般管理費)について

(1)の事実は、当事者間に争いがない。

しかし、被告が主張する研究開発費は、本件トピアス製剤を販売した期間における研究開発費であって、本件トピアス製剤の研究開発に要した具体的費用ではないから、被告が受けた利益の算定に際して、これを控除することはできない。

したがって、本件トピアス製剤の販売費・一般管理費は、三七〇五万九〇二三円となる。

(四)  同項(四)(損害額)について

以上のとおり、本件トピアス製剤の製造販売により被告が受けた利益は、右(一)(3)の一億三二九六万五八一〇円から右(二)の七一八四万一八〇〇円及び右(三)の三七〇五万九〇二三円を控除した二四〇六万四九八七円となる。

そして、右金額が、原告の被った損害額と推定される。

六  抗弁第2項について

右に原告の損害額として認定した金額は、その算出過程から明らかなように、原告において真実の売上額を立証できなかったことから、被告の主張額を前提として算出したものであり、被告主張額が正当として認定されたものではない。

したがって、本件においては、仮に被告に重過失がなかったとしても、その点を参酌して、損害賠償額を定めるのは相当ではない。

七  以上判示したところによると、原告の請求は、不法行為による損害賠償として、二四〇六万四九八七円及びこれに対する平成五年四月一日から支払済に至るまでの民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払うことを求める限度で理由があるから、右の限度でこれを認容し、その余の部分については理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岡久幸治 裁判官 森義之 裁判官 岩松浩之)

(別紙) 化学式目録

(一)

<省略>

(式中のRは炭素原子数1から3のアルコキシル基であり、nは2または3である)

(二)

<省略>

(三)

<省略>

(四)

<省略>

「被告のトラニラスト製造法」

[反応式]

<省略>

[使用原料]

M.W 使用量

(h)2-(3、4-シメトキシシンナモイル) 326.4 10kg

アミノ安息香酸アミド

(i)25%塩酸 80L

(j)メタノール 45L

(k)10%水酸化ナトリウム 16L

(l)10%塩酸 15L

[操作法]

1.(i)80Lに(h)10kgを加え、90℃で約4時間加熱攪拌する(TLCにて反応終了を確認する)。

2.水冷後、結晶を濾取、水30Lで洗浄する。次いで(j)15Lで洗浄後、結晶を(j)20Lで懸濁、一夜放置後濾取、(j)10Lで洗浄。

3.この粗結晶を100Lの水に懸濁し、(k)16Lを加え、加熱溶解後、活性炭1kgを加え濾過する。

4.濾液を水冷後、(l)15Lを加えPH約2に調製すると結晶が析出する。

5.これを濾取、水30Lで洗浄後、90℃にて5時間送風乾燥し、目的とするトラニラスト9.07kg( 0.2%)を得。

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